都庁に向いている人

 「公務員に興味はあるけど、そもそも自分は都庁に向いているのだろうか?」

 こんな疑問があるため、なかなか受験勉強・転職活動への一歩を踏み出せない方もいらっしゃると思います。

 今回は、都庁受験を考えている方に向けて、都庁で働くことに向いている人の特徴について解説していきます。

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1 はじめに

 都庁を目指す学生、そして社会人の皆さまの間では、次のような志望動機を持っている方が多いのではないでしょうか。

  • 地元で働きたい
  • 他人のために働きたい
  • 公務員は安定している
  • 転勤がない
  • それほど忙しくなさそう
  • 社会的ステータスが高い

 面接試験で志望動機を聞かれた際に、「忙しくなさそうだからです!」と正直に答える方はいませんが、このような理由で都庁を目指す人が多いのが現実です。内部職員を見てるとわかります(笑)

 しかし、これはあくまで志望動機にすぎず、志望動機によって都庁で働くのに向いているか・向いていないのかを判断することはできません。

 「他人のために働きたいと思ったけど、想像と違った」という声は、実際の職員の中でも非常によく聞こえてくる声です。

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2 都庁に向いている人

 では、どのような人が都庁で働くのに向いているのでしょうか。

 都庁で約10年勤務した筆者の経験と、現役職員の声を踏まえて、都庁に向いている人の特徴を解説していきます。

2-1 「公平性」・「公正性」を遵守できる人

 都庁に限らず、公務員の仕事の大原則は「公平であること」と「公正であること」です。

 これについては、現在公務員でない受験生の方も、「そうだろうな」と感じると思います。公務員は、税金を原資に仕事をしているため、特定の人や企業を優遇することは当然許されません。場合によっては汚職事件や癒着事件に発展し、逮捕・懲戒免職処分をされることもあります。ニュースでも、頻繁に汚職事件の報道はされています。

 また、公務員は法令の遵守が絶対です。そして、法律や条例に則って仕事をしなければならないため、「公務員は融通が利かない」と世間から批判されることが非常に多いのです。「15キロぐらいのスピード違反なんて皆やってるんだから、見逃してよ」と白バイ隊員に泣きついても、絶対に見逃してくれません(笑)

 「なんで自分だけ?」というドライバーの気持ちは痛いほどわかりますが、これで白バイ隊員が見逃したら、警察組織として大問題になります。

 このように、どんなに世間から批判をされても、公務員が法令を破ることは法治国家として決して許されません。淡々と法令に従って仕事を進めなければならないのです。この辺については、皆様もある程度納得できると思います。

 しかし、実際の公務員に要求される「公平性」・「公正性」は、このレベルではありません。

 イメージを持つため、少し極端な事例を紹介します。

事例①

 都庁職員の目の前に、両親が蒸発し、お腹を空かせている子供がいたとします。職員は、この子供にお弁当を配ろうとしましたが、上司に止められました。職員が不思議がっていたところ、その上司は次のように言いました。「他にもお腹を空かせている子供がいるのに、この子にだけお弁当を渡すのは公平性を欠くから許されない。」「このお弁当の原資は都民からの税金だから、お弁当を配るには法令上の根拠が必要だ。この子にお弁当を渡していいという法令は存在しない。」です。

 このような事例を見て、どう感じるでしょうか?

 もちろん極端な例なので、現実にこういう事例があったら、児童相談所に連絡をして保護してもらうという手続きを取ることになるでしょう。しかし、「あくまでお弁当を渡してあげることができるか」という視点からこの事例を考えた際には、この上司の指摘が公務員として正しいものになります。

 これに対し、「酷すぎる」「目の前の子供を助けないで、何が都民のためだ」と感じる方が多いでしょう。筆者自身も、個人的にはそう思います。

 しかし、心の中でそう思ったとしても、正義感にかられて、実際に子供にお弁当を渡してしまう行動に出る方は、都庁で働くのに向いていないと言えます。動機はどうであれ、法令違反になりえてしまうからです。

 公務員である都庁職員に求められる役割は、「目の前の子供を助けること」ではなく、「貧困な子供を助けること」です。「貧困な子供」を助けるために、支援金等の制度設計をする・福祉施設を作る・ケアセンターを準備する、ことが、都庁職員に課せられた使命です。都庁に限らず公務員を目指す方は、公務員は問題の解決に対して、こういったアプローチ方法を取るという事実を知っておいた方が良いと思います。

 ただし、一人の人間として、「目の前の子供を助けてあげたい」と思うことは、むしろ当然の感情だと思いますので、そこを否定しているのではありません。筆者自身も、目の前の子供を助けてあげたいと心から思います。

 しかし、たとえ心でそう思ったとしても、公務員の行動としては「公平性」・「公正性」を遵守することが求められる場面が極めて多いということです。

 上記事例はさすがに極端ですが、次のような事例は、主税局の現場事務所で日常的に生じています。

事例②

 優しそうなおばあちゃんが、涙を流しながら都税事務所に相談に来ました。最愛の夫が亡くなってしまい、まだ傷も癒えない間に、都税事務所から相続財産にかかる税金の催促の知らせが届いたとのことです。おばあちゃん自身には収入が全くないため、すぐに税金が支払えないのですが、支払わないと住んでいる家を差し押さえると職員に言われたとの相談です。

 この事例の方がイメージしやすいかもしれません。当然ながら都税事務所の職員は、このおばあちゃんから税金を徴収しなければなりません。また、支払えない場合、財産の差し押さえ手続きに入らなければなりません。「おばあちゃんが気の毒だから、何とかしてあげたい」という気持ちがあったとしても、税金を免除する法令上の規定がない以上、淡々と差し押さえに向けた手続きを進めなればならないのです。

※法令で、税金の支払い免除・支払い期限の延期等の処置が規定されている場合もあります。

 税金を支払うこと、そして支払えない場合は差し押さえがされることは法令で決まっており(公正性)、同じ条件だったとしたら、他の都民も差し押さえを受けるため、このおばあちゃんだけを優遇するわけにいかない(公平性)からです。

 自分で紹介していて、なんだか心が痛みました(笑)

 しかし、心が痛みながらも「公平性」・「公正性」を遵守できるメンタルを備えていることが、公務員である都庁職員に向いている要素の一つです。目の前の事例に毎回心が揺れてしまう人は、日常の業務で大きなストレスを感じる場合が多いでしょう。

2-2 割り切れる人

 上のような事例に遭遇した際に、心では悩みながらも、「決まっているのだから仕方ない」と割り切れるかどうかが、現実問題として非常に重要になってきます。

 繰り返しになりますが、公務員の仕事は「目の前の困っている人」を助けることではなく「困っている『都民一般』」を助けるためのものである場合が非常に多いのです。筆者の知っている都庁職員でも、仕事をしていく上でこのギャップに苦しみ、都庁を退職してNPO活動に参加する人もいました。

 また、上記のような心が痛む事例ではなくても、割り切らなければ仕事にならないことは非常に多いです。

 ご存知の方も多いと思いますが、役所には、一見するとやる意味のわからない仕事が無数にあります。しかし、そういった仕事の大半も、何らかの法令に基づき行っている事務であることがほとんどのため、すぐに省略することができないのが現実です。

 こういった仕事に対し、「なんでやらなきゃいけないの?」「コスパが悪すぎ」と毎回感じてしまう人は、バカバカしくなり非常にストレスが溜まるため、都庁で働くのに向いていないかもしれません。

 例えば、役所では1,000円程度の本を一冊買うにも、買うための理由を記載した書類を作成し、上司の了承(決裁)を取り、経理に行って予算を確認し、契約の担当部門に契約方法を確認し、と、膨大な時間がかかることが多いです。部署によって異なるとは思いますが、1,000円の本を一冊買うのに、早くても数時間の事務時間がかかると思います。場合によっては、1日で事務作業が終わらないこともあります。当然ながら、作業をしている間にも、この職員の人件費は発生しています。1,000円の本を買うために要した人件費は、一体いくらになるでしょうか?安くても数千円になることは間違いないでしょう。

 筆者自身、「これは税金の無駄遣いなのではないか?」と心から思います(笑)

 しかし、物品の購入に関する手続きはすべて法令で規定されているため、どんなに時間がかかってコスパが悪かったとしても、手続きを省略することはできません。こういった仕事を担当した際も、「決まってるのだから仕方ない」と割り切ることが実務の上では非常に重要になります。

 心では疑問に思いながらも、割り切って仕事ができる人が、都庁に向いているといえるでしょう。

2-3 コミュニケーションの得意な人

 都庁の仕事を進めていくには、コミュニケーションの得意な人が圧倒的に有利です。

 筆者もそうでしたが、公務員は黙々とデスクワークを行うというイメージがあると思います。実際、「コミュニケーション能力が低くても問題ないのではないか?」というイメージを持っている方が多いです。また、「自分はコミュ力が低いから公務員になりたい」、と考えている方もいると思います(笑)

 公務員はコミュ力が低くても務まるというイメージ自体は、間違っているとまではいえないのですが、都庁の仕事は自分の部署だけで完結する場合が少なく、部署間をまたぐ仕事が非常に多いのが特徴です。なので、必然的に他部署と調整をしなければならないことが多くなります。コミュニケーション能力が高い人は、他部署の担当に良い印象を与えることができるため、仕事に際し積極的に協力をしてもらえるような関係を築くことができるでしょう。都庁で仕事をしていく際には、この関係性を築くことが極めて重要です。

 例えば、面倒くさい仕事・大変な仕事を他部署に依頼しなければならない場合も日常的にあります。その際に、「〇〇さんの頼みだから仕方ないか」と思ってもらえる人は、それだけで仕事がスムーズに進みます。公務員の仕事の性質上、自分一人では仕事が完結しないため、一緒に仕事をしている人の協力をいかに得るか、が本当に重要になります。

 一方、本人の仕事能力が高くても、コミュニケーションが苦手な人は、他部署に依頼する際にうまく協力を得ることができず、仕事が止まってしまうことも多いです。

 「公務員はコミュ力が低い」と思われがちですが、公務員の仕事には間違いなくコミュニケーション能力が必要です。コミュニケーションが得意な人は、どこの部所に配属されても活躍できる可能性が高いでしょう。

 余談ですが、コミュ力が高くない人も一定程度存在しているため、コミュ力が相対的に高い人は職場で活躍できる可能性が極めて高くなります(笑)

2-4 バランス感覚のよい人

 上で3つの特徴を解説しましたが、最も重要なのは本項です。

 都庁で仕事をする際には、バランス感覚が最も重視されます。その理由は、2~3年サイクルの人事異動を前提として、職員が配置されるからです。

 例えば、パソコンのスキルは凄いけれどもコミュニケーションが苦手な人・企画能力は高いけれども資料作りが下手な人・文書能力は高いけれども電話対応が下手な人、という得意・不得意がはっきりしているタイプの職員は、配置される部署によっては能力が発揮できないため、上司や人事部から扱い辛い印象を受けてしまいます。

 そして、一人の職員をずっと同じ部署に配置しておくことは公務員の性質上許されないため、その職員が向いていない職場へ異動させなければならないことも多いのです。組織にとっても本人にとっても、不本意な人事です(笑)

 都庁の理想の人材は、上の要素で考えるならば、ワード・エクセルを普通に使いこなせて、コミュニケーションが無難に行え、政策の企画も普通にこなすことができ、わかりやすい資料を素早く作ることのできる人、です。一つ一つのスキルがすごく高いことは要求されておらず、「何をやっても無難にこなせる人」が最も求められているのです。

 このようなバランス感覚のよい人は、どの部署に配属されても活躍ができるため、本人としても満足して仕事ができるでしょう。特に苦手なことがなく、与えられた仕事を何でも淡々とこなすことのできる人が、公務員にとって最も理想的な人材です。間違いなく都庁に向いていると断言できます。

 反対に、自分の能力の得手不得手がはっきりとしている人は、何でも屋である都庁職員には向いていないかもしれません。

 自分に得意なスキルがあり、それを活かして働きたいと考えている人は、公務員よりも別の仕事を目指した方がよいでしょう。その方が、活躍できる可能性が圧倒的に高いと思います。

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3 まとめ

 今回は筆者の経験と現役職員の声を元に、都庁に向いている人の特徴について解説をしました。しかし、これを言っては身も蓋もないのですが、自分にこのような特徴があるか否かは、実際に働いてみないとわからないと思います。

 社会人の方で現在仕事をしている人はともかく、就職をしたことのない学生にとっては、自分が何に向いているか?どんな特徴があるのか?を的確に判断することは非常に難しでしょう。

 筆者自身についても、都庁を辞めて転職をした理由の一つに、「割り切れなかった」ことがありますが、学生時代はむしろ自分は割り切れる人だと考えていました(笑)

コメント

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