「公務員は有給使い放題なの?」「都庁って激務と言われているけど、有給は取れるのかな?」
都庁への就職・転職を考えている方の中には、このように都庁の有給事情に興味を持っている方も多いと思います。筆者自身、入都前は有給事情について興味深々でした(笑)
今回は、そんな都庁の有給事情について、様々な面から解説していきます。
※一般的に年次有給休暇は「有給」と呼ばれていますが、都庁内部では「年休」という呼び方が一般的なため、本記事でも以後「年休」と表記します。
1 はじめに
年休は、労働者に保障されている法律上の権利です。与えられた年休を全部使おうが、原則としては何の問題もないはずです。
しかし、「そうは言っても、うちの会社じゃ有給なんて取れないよ」と嘆いている民間企業にお勤めの方も星の数ほどいらっしゃることでしょう。
民間企業に勤めている筆者の友人や、民間企業から都庁に転職してきた同期の話を聞いても、「転職前は有給をほとんど取れなかった」という人は珍しくありません。法律上の権利とはあくまで建前の話で、そんな建前が通じない会社も多いのが現実だと思います。
では、都庁においてはどうでしょうか?また仮に年休が取れるとしても、年休を取ることで人事評価や出世に響く可能性はないのでしょうか?
まずは、都庁の年休制度について解説していきます。
2 都庁の年休制度
都庁の年休制度は極めてシンプルです。細かいルールもありますが、主要なポイントは次のとおりです。
①毎年1月1日に20日分が付与される
②使い切れない場合、20日分を上限に翌年に繰り越し可能
③半日単位・1時間単位の取得も可能
また、制度ではありませんが、都庁内部の運用として、
④基本的にいつでも取得可能だが、体調不良等やむを得ない理由を除き、始業開始時刻から休む場合は前日までに申告
とされています。
では、具体例を踏まえて①から順に解説していきます。
①毎年1月1日に20日分が付与される
都庁の年休は、毎年1月1日に、1年分である20日分が一気に付与されます。
都庁のみならず、公務員の世界では年度の開始が4月であるため、年度の開始時期と年休の付与期がずれているのが特徴です。新入職員は4月1日入都のため、入都の年のみ4月1日付けで15日分(4月1日~12月31日分)が付与され、翌年の1月1日に次年の20日分が新たに付与されます。
民間会社の中には、初年度には10日程度の有給が与えられ、その後毎年1~2日ずつ増加していき、入社5~6年目にようやく20日に達する企業も多いです。また初年度の有給を付与されるのも、入社後半年を経過してからという企業も一般的です。
これに対し、都庁では1年目から上限の15日分が付与され、すぐに取得することができます。この面においては、労働者に有利な制度設計になっていると言えるでしょう。と言っても、さすがに入都直後の4月から年休をガシガシ使う新人はほとんどいませんが(笑)
②使い切れない場合、20日分を上限に翌年に繰り越し可能
年内(12月まで)に使いきれない年休があった場合、20日分を上限に翌年に繰り越すことができます。
例えば、令和2年4月1日に入都した職員は同日付けで15日分の年休が付与され、すぐに使用することができます。そして同年12月31日までに5日分を使用した場合、残りの10日分は次年(令和3年)に繰り越すことができます。つまり、令和3年1月1日時点で、繰り越し10日分+当年度分20日分=30日分の年休取得権を得ることになります。
一方、この職員が令和3年1月1日~12月31日までの1年間の間に再び5日分の年休しか使用しなかった場合、令和3年12月31日時点で年休が25日分余ることになりますが、次年(令和4年)に繰り越すことができるのはこのうち20日分のみです。つまり、5日分の年休が消滅してしまうことになります。このことを、「5日分捨てた」と都庁職員は表現します(笑)
そして、5日分を捨てた20日分を次年(令和4年)に繰り越すと、令和4年1月1日時点で、繰り越し20日分+当年度分20日分=40日分の年休取得権を得ることになります。
この「40日分」が、年休の取得権の上限ということになり、1月1日の年休付与日に40日を超えることはありません。
つまり、年休としてストックできる上限は40日ということです。
③半日単位・1時間単位での取得も可能
年休は1日だけではなく、半日単位や1時間単位で取得することも可能です。
特に1時間単位で取得できる、通称「時間休」は、用事がある場合等に本当に便利です。民間企業では時間休が導入されてない会社も多いと聞きます。
民間に勤めている筆者の友人は、「夕方から歯医者に行くために半日有給を取った」と話をしていましたが、同じ状況の場合、都庁職員は1~2時間休を取得して早めに退庁することで病院に間に合わせている人が多いです。
朝一や夕方に用事がある場合に、半日休暇や1日休暇を取得することは勿体ないと考える人も多いと思いますので、この時間休は非常に便利なシステムです。
④基本的にいつでも取得可能だが、体調不良等やむを得ない理由を除き、始業開始時刻から休む場合は前日までに申告
さらに、仕事の都合がつけば、年休はいつでも申請することができます。
例えば、ある日の15時から会議の予定が入っていたのに、相手方の都合等で13時頃にその会議が流れることが確定した場合、「今日は予定が空いたから帰ろうかな」と、その時点で半日休暇を取得して帰る職員もいます。こういう年休の取り方も、都庁ではそれほど珍しいことではありません。
筆者自身も、仕事が早く片付いた日に急に映画が観たくなり、思い立って年休を取得したことがあります。もちろん、他の仕事の調整が出来ていることが大前提ですが(笑)
このように、仕事の都合がつけば当日であったとしてもフレキシブルに年休を取得することが可能ですが、例外もあります。それが、始業開始時刻から休む場合です。この場合は、前日までに申告する必要があります。
これはある意味常識かもしれませんが、朝起きて「今日は天気がいいから釣りにでも行くか~」と思い、職場に「今日は年休取ります!」と電話して休むことはさすがにマナー違反です。制度として禁止されているわけではありませんが、社会人のマナーとして、朝から休む場合は前日までに申告をしておきましょう。
このような当日休が続いた場合、管理職である課長から注意や指導が入ることが多いです。もちろん、体調不良でやむを得ずに休む場合は別ですが。
3 職員の年休事情
ここまで都庁の年休制度について解説してきました。ここからは、実際の都庁職員の年休事情について具体的に解説していきます。
3-1 職員の年休取得率
都庁では毎年20日分の年休が付与され、フレキシブルに取得することができると述べました。「そうは言っても、本当にみんな年休を取れてるの?」と疑問に持つ方も多いと思います。
では、実際の職員の年休取得率はどの程度でしょうか?
結論を先にいうと、都庁全職員の平均年休取得日数は、年間約12~14日程度です。20日分の年休から取得率を算定すると、6~7割といったところです。これは、本庁・出先事務所を含めた全職員の平均です。
※詳細の数値は外部に公表されていないため、あえて幅広い数値を記載しました。ご了承下さい。
有給が全く取得できない民間企業と比べると、6~7割の取得率は極めて優遇されているとも思えますが、トヨタやホンダ等の大企業では、ほぼ100%の有給取得率を達成しているので、そういった企業と比較すると決して都庁が恵まれているとも言い切れません。
そして当然ながら、激務の部署の場合、取得日数は減少する傾向にあります。筆者の先輩で某局の人事部に配属された人は、年間5日間程度しか取れなかったと言っていました。それに対し、業務量にゆとりのある出先事務所に配属された職員の中には、毎年確実に20日を取得する職員も多いです。
それを全部平均すると、年間12~14日程度という数値になります。筆者の肌感としては、本庁の比較的忙しい部署の職員は10日前後の年休を取得する人が多く、出先事務所等のゆとりのある部署の職員は15日~20日程度の取得が多い印象です。中には激務の部署で20日取りきる人もいますが、そういった方のタスク管理能力は尊敬します。
余談ですが、都庁本庁の管理職の年休取得率は平均して相当に低いため、都庁内でも大きな課題となっています。偉くなると休めない、と覚えておきましょう(笑)
3-2 年休と人事評価
続いて、「都庁において年休は取りやすいのか?」また「年休を取ることで人事評価・出世に影響しないのか?」について解説していきます。
こちらも結論を先にいうと、基本的に年休は非常に取りやすい環境と言えます。また、年休を取ることで人事評価・出世に影響が生じることも基本的にありません。
2-④で解説したとおり、都庁では全般的に自分の仕事の都合が付けば、どれだけ年休を取得しても文句を言われることはありません。むしろ優秀な職員ほど、メリハリをつけてしっかりと年休を取得している印象です。
しかし、「基本的に」というのが難しいところです。現在ではかなり少なくなりましたが、わずかながら昭和気質の上司も存在しているため、年休が取りづらいケースが無いわけではありません。
実際、わずかながら「若いうちは休まず、仕事を頑張れ!」という昭和的な考え方の上司が存在しています。筆者自身はないのですが、筆者の同期はそのような上司(課長代理)に当たりました。仕事の調整を付けて、月に1~2日のペースで計画的に年休を取得しようとしていたのですが、「若い内からそんなに休んでばかりいていいのか?俺は年休なんてほとんど使わず、捨てていたぞ。」と嫌味を言われたそうです。さすがに直の上司にそう言われると休みづらくなるため、年休の取得の頻度を下げたと話をしていました。彼は現在、現役で都庁にいますが、未だに納得していないそうです(笑)
また、年休を多く取得する人の人事評価が低いという相関関係もありません。毎年20日分の年休をフルに使用して、かつ管理職試験に一発で合格する優秀な職員も多いです。反対に、全然休まないけれど、人事評価が低い職員も普通にいます。人事評価は、基本的に通常の仕事内容で評価されています。
しかし、上で述べたような昭和的な上司が課長だった場合、年休の取得日数が人事評価に影響しないとは言い切れません。「休んでばかりでやる気がないな」と課長に思われてしまった場合、そのような職員に対して良い成績を付けることは考えづらいからです。
制度上は、年休の取得によって不利な人事評価することは認められていません。しかし、現実問題として評価をする課長からの印象が悪くなってしまった場合、その職員の人事評価が下がってしまうことは避けられないでしょう。これは都庁に限らず、どこの組織でも似たような側面があると思います。
とは言え、こういった上司は確実に少数派なので、基本的には年休を取ることに何の問題もないと考えていただいて問題ありません。
3-3 年休を取らない人
昔気質の上司が存在しているためか、都庁には「年休を取れるのに取らない人」も一定程度存在しています。明らかに休めるタイミングがあるのにも関わらず、「何だかんだ仕事があるから休めないよね~」という先輩や同期も多く見てきました。
優秀な職員ほど、オンオフを切り替えて効率的に年休を取得しているという印象がある一方、「年休を取らない方が評価されるのではないか?」「休むと皆に悪いし…」と考え、自ら年休を諦めてしまう職員も一定程度います。この、一見矛盾する考え方が職場内に併存しているあたりが、非常に日本的だと思います(笑)
筆者としては「人事評価と年休は関係ないから、休んだ方が得だよ!」と声を大にして言いたいのですが、上で述べたとおり、わずかながら「年休を取るやつは怠けている」と考える上司もいるため、人事評価と年休が一切関係ないと言い切れないのが苦しい所です。
しかし、ほとんどの上司は年休の取得と人事評価を別に考えていますので、基本的には年休を取得しても何も問題ありません。そのような上司に当たってしまった場合、運が悪いと諦めるしかないかもしれません。
3-4 新人は年休を取れるか?
以上を踏まえると、新人でも年休を取れるのか?という疑問に対する答えも想像できると思います。
答えは、基本的には新人でも問題なく年休を取れるが、わずかながら渋い顔をする上司もいる、です。
筆者自身は新人時代にそのような上司に当たらなかったため、入都の年から数日年休を取得しましたが、筆者の同期の中には、「新人時代は体調不良以外の理由では出来るだけ休まない方が良い」と指導された人もいました。
こちらも筆者の肌感ですが、新人は4月1日~12月31日までの間に、5日~8日程度の年休を取得する人が割合的に多い印象です。稀に15日使い切る強者もいますが、極めて例外的です(笑)
4 まとめ
今回は、都庁職員の年休事情について解説をしてきました。簡単にまとめると、次のとおりです。
- 毎年20日分の年休が付与される
- 年休は非常に取得しやすい
- しかし、わずかながら休むことを良く思わない上司がいる
- 全体の年休取得率は6~7割程度
色々と解説してきましたが、筆者個人としては、都庁の年休事情についてはかなり満足していました。休もうとしたときに休めないことは殆どありませんでした。それは、筆者が昭和気質の上司に当たらなかったことが大きいと思います(笑)
ただし、忙しい時期には3~4か月の間1日も年休が取れなかったこともあります。これは業務量とのバランスなので、仕方ないともいえます。その分、業務の閑散期にはある程度まとめて年休を取ることができました。
色々と述べてきましたが、都庁を目指す方は、年休については概ね期待してよいと思います!
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